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            メール・マガジン

       「FNサービス 問題解決おたすけマン」

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    ★第125号         ’02−02−15★

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     トレード・シークレット(2)     

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●岡野社長の痛快なご託宣の一つは、

 

「大企業に出来ないものがうちに出来るのは何故か? 彼らはサラリー

マン、責任を取るやつがいない。 みんなで<出来ない>と言ってれば、

せずに済む。 しなければ、失敗も無い、、」

 

 

<深絞り>は数段階を要するが、各段階で形や寸法をどう変化させるか

は計算し切れるものではなく、試行錯誤の反復を覚悟しなくてはならぬ。

その覚悟、オレにはあるがサラリーマンにはあり得ない、、 ですか?

 

そうお考えなら、岡野さん、アン・フェアです。 <サラリーマン>に

責任感が無いのではない、損得抜きの人もいる。 それがサービス残業

にもなるのでは?  むしろ、<出来ない>の声が出る時、問題なのは

 

<上>であることが少なくない。 命じておきながら予告無く打ち切る、

取り上げてほかへ回す、苦労して達成してもろくに報いない、担当者の

言葉に耳を傾けない、、 実に discouraging な人が多いんだから、、

 

社長である岡野氏はそんな目に遭わずに済んだから「4年間」ガンバル

ことが出来た、とも言える。 もし彼が<命じて任せる>道を選んだと

したら、果たしてガンバル部下を4年もの間、見守れたろうか。 即ち

 

<出来る彼ら>にしたければ、まず<上>自らガマン<出来る>ことを

形に表し、各担当者を支援し続ければ良いのだが、多くはそうしない。

 

また、岡野氏のように<上>が率先して成果を見せても、<下>がみな

勇んでついて来るわけでもない。 で、つい何か言いたくなる。 が、

 

言えばますます離れるだけ。 言ってやらなきゃ分からないような人は、

たとえ言っても分かってはくれない。 初めから分かりたくない、のだ。

 

考えてみれば<出来ない>から<下>なのだし、<下>が<出来ない>

ことをするのが<上>のはず。 なのに、そうでないことが珍しくない

のが日本的経営。 その辺、岡野さんはお分かりなのか、どうか?

 

*   *

 

おっと脱線。 本題、シークレットに戻ります。 我がサーモスタット、

 

堅牢さで他を凌ぎましたが、そのシークレットは自社製中空無酸素銅鋲。

径2ミリの軸に径1ミリの深穴をNM社製の製鋲機がチップ(切り粉)

レスで掘り込む。 一種の深絞りですが、その金型がなかなか難しい。

 

鋲は多種類、それぞれに金型が必要。 それをその都度輸入するなんて

現実的でない。 しかも金型製作には実機での試行が伴うのに、実機を

備えた金型屋はいない、、 結局、金型は自社で作るほか無い、、 で、

 

機械本体の現地調査▼発注と同時、オハイオ州はティッフィンなる町の

NM社工具室に2週間、立てこもって資料類を漁り、質問を重ねて設計

パターンを導き出し、我が社専用金型図面一式にまとめ上げました。

 

滞在費節約で、毎日毎食ジャンク・フード。 体脂肪をタップリ着けて

帰国したため、苦労したぜ、と言っても本気にしてもらえなかった。

 

それにしてもあのガンバリと成果は、やはり私が<サラリーマン>じゃ

なかったからだよなあ、と心で呟いて済ませましたが、、

 

  ▼当時 Tubular rivet header のメーカーは世界に3社。 1社は

   ドイツ、2社がアメリカ。 ドイツ語はダメ。 米2社の一方は

   超精密多段ロール<ゼンジミア・ミル>製造で知られたWF社。

 

   NMかWFか。 一長一短、カタログや商社の説明では判断でき

   ない。 機械実物は現地まで行かなくては見られない。 まずは

   オハイオ、次にコネチカット、そしてオハイオへとんぼ返り、、

 

*   *   *

 

ちなみにNM社の機械、彼らがアイアンと呼んだ本体は鋳鉄でなく鋳鋼、

ブラースなる軸受け材は砲金でなくニッケル・ブロンズ。 つまりイヌ

ではなくてオオカミ。 精度、寿命、、想像を遙かに超えたものでした。

 

  ▼WF社のは鋳鉄、砲金、すべて想像<内>。 何より違っていた

   のは<人々>の質。 これはカタログに書いてない。 が、品質

   は人が作る。 迷わず<オオカミを育て上げた人々>を選んだ。 

 

資本金に数倍する価格なので、1台しか買えない。 故障したら致命的、

それには、と予備部品一式を付属させたのですが、16年後私が辞める

までその箱の蓋を開けることがついに無かった、、くらい。  また、

 

鍛圧機なら当然、衝撃や振動がある。 が運転中、本体上面に立たせた

コインが倒れないほど静粛。 機械工場の騒音に親しんで育った私には

やや異次元の感覚でした。 即ちシークレットとは、このように

 

さりげなく込められて奥ゆかしく、長い年月を越えてその真価を顕わす

もの、のようでありますな。  やかましく宣伝する必要が無い、、

 

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●「うちは町医者。 そこに

 

大病院が、治らない患者を運んで来る。 それを治して行くわけだから、

こんな楽しいことはないよ」 岡野工業は、仕事を探しに行かなくても

お客さんの方から足を運んで来てくれる<宣伝する必要が無い>会社。

 

従って営業マンが要らない。 受注生産だから作っただけは必ず売れる、

作ることに専念できる。 まさに<製造>業、これぞ<あるべき姿>!

 

TVで観た手狭さや設備の種類、作業の様子などから思うのは、あれで

6億、その「8割を研究費に」というから約5億円、、 そんな巨額の

カネ、いったいどう使うんでしょう? 

 

 

実はサーモスタット屋も<お客さんの方から>で、営業マン抜きでした。

製品自体が宣伝係。 競合T社のを組み込むと市場クレームが発生する、

我が社品に替えるとピタリ鎮まる。 T社品が IS、我が社品が IS NOT。

だったら IS NOT 使わなくちゃ、、 は当然のPA的結論。 で、

 

訪ねて来られるが、こちらにも方針はある。 余力範囲の数ならご注文

お受けするが、年度予定生産数を売り切ったら、後は「ゴメンナサイ」。

 

来期は是非お早めにどうぞ。 「特に御社のため、」の設備拡大や残業・

休出は致しません。 高い効率で精一杯働いておりますので、それ以上

は、、 (神様も七日目にはお休みになった、と申しますからね)

 

カネさえ払えば買える、と客は思う。 が、払っても買えないとなると、

余計買いたくなる、らしい。 これ、心理的シークレット。 買う側が

自由に買付先を選ぶのだから、売る側にも客を選ぶ自由が無くちゃ、、

 

で、客先を<夏商品>と<冬商品>、二様に定めれば all year round。

あとは作ること、良いものにすること、にシコシコ、、

 

*   *

 

だから業界最高の利益率、事実上無借金経営でしたが、それでも研究費

なんてろくに計上したことは無く、ただ<熱心な納税者>やってました。

 

この国じゃそういうの、バカって言うんでしたっけ、元国税局長さん?

どうも、その方面のシークレット、サーモ屋には欠けておりましたな。

 

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●その頃の常識は

 

<三年倍増>。 3年で資本金、年商、従業員数など、2倍になるもの

だと言われていました。 だから、勧誘に来た強気のS銀行、

 

財務資料を前に不審顔。 「3年前と変わりませんな。 これで経営が

成り立つわけ無い」 でもこの通り、成り立っていますがね? 「いや、

オカシイ」 おや、<倍増>せねば、という考え方もオカシイのでは?

 

で、お引き取り頂いた憶えがある。 あんなのに煽られて倍々ゲームに

加わった会社も少なくなかったのでしょうが、カニは甲羅に似せて穴を

掘る、と言う。 我々は我々の<穴>で快適健全、満足しておりました。

 

人生、身の程を越えては良いことありません。 バブル期、やはり銀行

に煽られて拡大や投機に走った会社は少なくなく、その大半がオカシク

なったことを思うと、、 カニの知恵もバカになりませんな。

 

 

しかし岡野社長は、どうやらカニでした。 足ることを知り、進む方向

を過たず、無から有を生むがごとき喜びを追いました。 なすべきこと、

即ち課題、を念じ続ければ、挙がる成果は大きい。 その番組では、

 

唐津一教授が「成功のもとは執念。 理屈や計算から出て来るものじゃ

ない」とコメント。 101号に書いた通り、粘りが大切、

 

持続的思考がヒラメキを呼ぶのです。 故F先生も「粘着力なき創造力

はあり得ない」と言われました。 問題解決に抜け道なし、手抜きせず

正攻法で押しまくる、、 これが分かり切ったシークレット。

 

岡野社長は自宅にいてもアタマを使い続け、アイデアが湧くと10秒で

仕事場へ飛び込み、すぐカタチにする、試す、、 そしてさらに考える。

 

松下幸之助も本田宗一郎も、でしたが、そういう頭の働かせ方、誰でも

するわけではない。 その人だからこそ。 即ち、属人的領域、、

 

*   *

 

<属人>で思い出したのは、技能と技術の違い。 その人にだけあって

引き剥がせないのは<技能>、その人から取り出して資料などにまとめ、

その客体を介して他へ移し込めるのが<技術>、という定義です。

 

これを当てはめると、岡野社長のは技術というよりむしろ技能。 容易

に他へ移せないもの、だから、自分と自分周辺の少人数とでこなすのみ。

あまり広くはサービスできそうにないし、事業の継承も難しかろう。

 

その点サーモ屋、<客体化>には熱心でした。 工業的に未熟な人々を、

短期間で信頼性の高い戦力に育てる必要があったし、安全に関わる製品

なので、少しの間違いも作り込まれてはならない、、

 

だから作業標準書の初版は、すべて私が作成。 テープがリールだった

当時の重たいビデオ・カメラも活用、各種のゲージや限界見本を万全に

整備し、私の実験を手伝わせ、勉強会を主宰し、、 全力投球でした。

 

故F先生にご指導頂いたのも、ただ手を動かすだけでない、研究的興味

や異常感知力のある人、しかも私の執拗な要求に耐えてくれそうな人を

効率よく採り、彼らに気分良く育ってもらうためでした。 しかし、

 

そのような性格や能力の人は多くない。 社員数を増やすことだけでも

容易ではなかった。 <3年倍増>? そんな無茶、するもんか! 

 

つまり故F先生直伝の<人質管理>が我が品質管理の基本シークレット

でした。 しかしサーモ屋の管理方式、あれは<技術>だったな、、

 

*   *   *

 

目に見えるモノを主に扱う製造業が大挙日本海、東シナ海の彼方に移り、

国内の空洞化が大問題。 しかし、そうなるはず、とは20年も前から

言われていたこと。 ここでうろたえるのは今までが幸せすぎた人、、

 

と私には思えます。 治にいて乱を忘れず、調子の良いうちに次をDA

すべきだったろうし、事業拡大に際しては、PPAで万一に備えておく

べきでした。 あるいは岡野社長のように、

 

他の追随を全く許さない水準を達成し、そのシークレットを守り通すと

いう手もあり得ました。 図に乗らず、本業を守る、、、

 

どんな時代にもどんな業界にも、地味だが不況には無縁、の健全企業が

ある。 高品質高性能の機械で世界中を顧客にしていたNM社、小さい

ダイヤモンドのようだったサーモスタット屋、、 よく見れば、

 

それらの共通点は<アタリマエの実践>。 あのゴーン氏がしたのは?

やはり<それ>でしょ。 ただ、どれにおいても、それがハンパでない。

徹底的アタリマエを徹底的に実践していることにご注目。 

 

*   *   *   *

 

元旦の新聞が例年と違い、メデタイ夢を語る記事が少なかった、という。

確かに見通しは良くない。 が、アタリマエへの回帰、かも知れません。

 

じゃ、何がアタリマエか、なんてところから、改めて考えてみますか?

それはつまり、Rational Process で頭を整理する、ということでは?

                          ■竹島元一■

 

   ■今週の<私の写真集から>は、 ★ファイアバードV★

 

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